海洋深層水の現状

各地での深層水を利用した食品と評価
2002.12.9
食品研究社 編集部 山田 由紀子 先生

食品研究社とは

まず、食品研究社について、簡単な説明をさせていただきます。
食品研究社は食品業界を専門とした月刊「フードリサーチ」を発刊しています。このフードリサーチには現在、海洋資源をテーマにした「海洋資源」を併載しています。
その中で、私は編集部記者として取材を中心とした仕事をしています。そのほかに「海洋資源研究会」、「惣菜つけもの研究会」などいくつかのセミナーを担当しています。
食品研究社には、フードリサーチ編集部以外に、「健康食新聞」、「ラッピング協会」などの別組織があり、それぞれが連携を取りながら活動しています。本日ご用意しました健康食新聞にその一部紹介がありますので参考になさってください。

食品と消費者の関係

全国でどんな深層水商品が作られているかは皆様も色々と見聞きしたり、また利用する機会も増えていると思います。
今日は食品分野の利用を中心に、商品を購入する“消費者の原動力”いわゆるニーズについてまず考えてみたいと思います。

消費者とはなにか

現代の「消費者」の姿はどんなものでしょうか。

20年前、家族の生活パターンはまだまだシンプルでした。家庭での製品の購入権のほとんどは家父長(おじいちゃんやお父さん)にありました。ご自分のまわりを思い浮かべてください。今は、おとうさんよりお母さん、お母さんより中学生や高校生、大学生といった子世代の意見が反映される時代です。決定権も次第に移りはじめています。

ITの発達によって、インターネットを使用した情報の収集が容易になりました。日本全国の情報、世界の情報も短時間で入手できる時代です。例えば、収集した情報を元に商品を購入し、その商品に対する感想を、インターネットの掲示板やメールという“クチコミ”を通して情報を広域に拡散できる時代でもあります。

また、家庭の変化につれ、食品をはじめとする商品の購入方法もずいぶんと変わりました。デパート、スーパー、コンビニの形態も、時代時代で変貌を遂げますし、扱う商品構成もずいぶんとかわりました。
ただ、そういう時代でも商品の購入についての一連の流れは変わりません。

<買う(試す)→満足する→リピート購入する>

リピートに行きつくには、その商品がそこそこの味だったか、それ以上の価値があると納得したときです。おいしくなかったり、何らかの欠点があったりした場合、よほどでなければ二度とその商品を購入しないでしょう。 

消費者がニーズを作る時代

最近、清涼飲料、果汁飲料業界の現状を総括するという企画を雑誌でたてました。取材先のサントリー、ポッカ、アサヒ飲料など飲料大手といわれる企業の担当者と色々お話しましたが、そのとき感じたのは、企業が優位に新商品の開発を行えるケースが少なくなりつつあるということです。

各社とも独自のマーケティング手法を駆使し、ターゲットとなる性別、年齢層などの嗜好・志向をキャッチしています。しかし、若い層をターゲットにした場合はターゲットに振り回されているという実態があります。移り気な若者があまりにも多く、マーケット戦略という武器を用いて万全の体制を敷いても、裏腹な結果が出ることが少なくないという厳しい環境だそうです。

そういった中に、深層水を利用する企業や商品は参入していかなければならないわけです。厳しい面ばかり先に訴えますと、ここにいらしてる皆さんが不安になるといけませんね。深層水の話題に入りましょう。

深層水利用分野には色々ありますが、今日は食品に関連するものを中心にお話します。
全国各地の深層水利用商品には次のようなようなものがあります。

 全 国 の 深 層 水 利 用 商 品 例

製品名

他の使用法

沖縄県久米島

清涼飲料水、塩、焼酎、水産加工品、そば

化粧品

高知県

水(ボトルドウォータ、ミネラルウォーター)、清涼飲料水、麦茶、烏龍茶、緑茶、酒、焼酎、ビール、パン、豆腐、豆乳、和菓子、麺類、しょう油、麺スープ、ポン酢、もろみ味噌、水産加工品(かまぼこ、ちくわ、アジ・イワシ・サバの干物、マグロの醤油煮、うなぎの蒲焼き)、漬物、水ようかん、塩、アイスクリーム、芋けんぴ、納豆、冷凍コロッケ、雑穀炊き込み御飯、こんにゃく、ところてん、わらびもち、寿司

化粧品、入浴剤、ウエットティッシュ、ペットの消臭材

静岡県

漬物、餡、豆腐、酒盗、たこ焼きほか。(11月より正式認可販売が可能になった。今後、新製品発売が続くと思われる)

魚原料・切り身の洗浄・解凍

神奈川県

清酒、ロックアイス、和菓子、らーめん、漬物、ハム・ウインナ―、ゆで麺、ミネラル・ウォーター、水産加工品

海洋深層水露天風呂

富山県滑川市

水(ボトルドウォーター、ミネラルウォーター)、清涼飲料水、焼酎、ビール、パン、豆腐、漬物、和菓子、おかき、麺類、しょう油、麺つゆ、味噌、だし、水産加工品(岩のり、昆布巻、いか商品、かまぼこ)、漬物、のしもち、弁当、おにぎり、羊かん、塩、

<タラソピア>、石鹸、シャンプー、リンス、化粧水、乳液、洗顔フォーム、入浴剤

富山県入善町

飲料水、水産加工品(ほたるいか)、まんじゅう、地ビール

新潟県

米粉100%深層水パン、かまぼこ、日本酒、おぼろ豆腐、せんべい、味噌、地ビール、一夜干しイカ、水産缶詰など

 ペットフード

北海道羅臼町

清涼飲料水、塩、漬物、水産漬物、ハム・ソーセージ・ベーコン、ポテトスナック、たらこ、いか塩辛、あられ・豆菓子、羊かん、コロッケ、かまぼこ、豆腐、焼酎

毛蟹、たらばがにの茹で湯に使用
化粧品

  1.  食品分野
  • 飲料水―ろ過水をボトリングしたもの、ろ過水にミネラル分を添加したもの、ろ過水と鉱泉水を混ぜたものなど企業によってコンセプトが異なります。

例―ろ過水100%―ブルボン「海の天然銘水」(三浦沖海洋深層水使用)
ろ過水と黒部の天然水のブレンド-富山化学工業「深海遊夢」(富山湾深層水)
*機能性飲料―従来のスポーツドリンクのコンセプトの飲料に深層水の原水を添加したもの。
例―ダイドードリンコ「MIU」

  • 塩―RO膜、ED法の水処理で、ろ過水と濃縮液ができます。濃縮水を有効利用する方法として塩を作るのが一番シンプル。各地域に水・塩をセットで扱う企業がみられます。
  • 干物―どの地域でも日持ちが向上する、味がしまる、甘味・旨みが出るなどの理由で利用が増えている。北海道や石川県などはイカ、高知ではアジやイワシなどを中心に利用法の開発をしています。
  • 漬物―従来より鮮明な色になる。深層水のもつ発酵促進作用で早く漬け上がる。食感がよくなるなどの報告があります。原水の利用が可能。


注:古くから海水を用いる漬物の手法があり、鹿児島県の「沢庵のつぼ漬け」などもその一つで、深層水の利用も考えられます。
また、昭和53年北海道新聞社発行の「北海道植物誌」の漬物の項では、キャベツ、白菜などいくつかの野菜について、下漬けの塩分濃度を3~4%位としています。

「キャベツの水漬け」を例にあげると、キャベツは白菜などに比べて、はるかに水の上がりが遅いので、海水くらいの塩水をたっぷり作り、この中に浸すようにして漬ける。また酸味とも相性がよい。とあります。深層水の原水の塩分濃度は3.4~3.5%ですからそのまま利用できるわけです。

  • 豆腐-深層水の利用例が多いのは豆腐やさんですね。元々豆腐には製塩工程から生まれる苦汁が使われてきたという歴史があります。裏方だった苦汁も、最近は、ミネラルの配合割合、味の違いを前面に打ち出した製品化がみられます。『深層水をどう用いるか』。豆腐づくりの現場は、ろ過水、原水や濃縮水などを用いて、独自の味を見出す努力をしています。

深層水を使った豆腐は、離水しづらくなる、甘味が強くなるといった特徴があります。

高知県のある企業は、“できあがった豆腐にしっかり感が残るところが高知県民の嗜好に合う”として、国内産大豆「フクユタカ」を使用しています。米国産大豆に比べ甘味の少ないフクユタカは、深層水を利用して甘味を足すことができるそうです。

  • 製菓―もともと塩を使うものが多く、分量が決まれば良い結果がでる。従来の製品より甘味が強くなるという報告が多く届いています。

 高知県の企業が深層水を利用した効果を報告したものに次のようなものがあります。

 西森畜産

海洋深層水を使った土佐の木酢豚

海洋深層水を飼料に利用。木酢+深層水の相乗効果で、甘味・こく・柔らかさが各段にアップ。これまでに比べ、脂肪分は50%もダウン。きめ細かい肉質の豚肉が生まれました。独特のくさみもなく、豚肉が苦手な方からもおいしいと評判。 

高木酒造株式会社

深層水が酒の酵母活性化

平成14年4月3日、高知県とアサヒビールの共同研究の中間報告が行われ、日本酒の香りと味を良くする秘密を遺伝子レベルで確認した。つまり、酵母中の香りの構成成分を作り出す遺伝子群が増強される事が判明した。特に、脂肪酸合成遺伝子群と、アミノ酸代謝にかかわる遺伝子群がより活性化されており、これが吟醸香を生む「脂肪酸エステル」と「高級アルコールエステル」の増加につながっているという。また、二つの遺伝子群は酒の雑味につながるアミノ酸を香りに変える機能を持つため、味も良くなるという。共同研究では、酵母の遺伝子(約6000個)の動きを一度に解析できるDNAチップ技術を利用し25万のデータを分析した。

農業利用の例をみてみますと、トマト・ミニトマト、ナスなどに利用例(人気)が集まっています。一番取り掛かりやすい素材といえるでしょうか

深層水の農業利用 例

都道府県

地域

利用者

利用作物

利用法

成果・評価

北海道

熊石町

 熊石町果菜栽培振興会

 大玉トマト

 水気耕栽培

おいしい

 農業者グループ夢菜来

 赤、緑の2種類のトマト

富山県

 入善町

 入善高校農業科

 ミニトマト、トウモロコシ

 苗に原水・ろ過水など希釈度を変えた深層水をかけて育成度を調べる

糖度アップ、形はこぶりになる

 農家

 里芋

 苗に深層水をかける

 農家

 堆肥づくり

石川県

 農家

 ミニトマト

 苗に深層水をかける

神奈川県

横須賀市

 農家 嘉山進氏

 大根・キャベツ

 生長促進、葉面散布による防虫予防

味、日持ちの向上

 堆肥の消臭

静岡県

焼津市

企業

豆苗

水耕栽培

 カルシウムなどの栄養成分アップ

高知県

ナス、カイワレ大根、キノコ(高知えのき茸)

 日持ちの向上

ハワイ

コナ島

 NELHA(自然エネルギー研究機構)

 イチゴ、生姜(ワイルド・ジ ンジャー)

味の評価はまだ不充分

 CHC

 桃、ブドウ

 周年栽培

各地の利用法にはご紹介してきたようなものがあります。その中には“何とか早く結果を出したい”と試行錯誤を重ね、製品化を図っている企業、すでに商品の発売をしたが、さらに改良を続けている企業もあります。

高知県、富山県など商品の展開が進んでいるところもあれば、単発的なサンプル取水の限られた深層水に今から取り組むところもあります。

先に生まれたお兄さん、お姉さんに対し、生まれたばかりの赤ちゃんといったところでしょうか。しかし、研究をリードする次の方たちの言葉を聞くと、先へ先へと慌てすぎる必要はないのではないかという思いもします。企業はどうしても同業者より先んじることに注力しがちですが、深層水についていえば、現在の研究内容はまだ「幼稚園児」の段階ともいえます。

農林水産省食品総合研究所 鈴木 平光氏 (高知県パンフレットより抽出)

海洋深層水の機能性・安全性-深層水を摂取した場合どうなるかということを研究しており、次のようなことが分かってきた。

・安全性については-毒性がない

・機能面では-脂質代謝を良くする成分が入っている

・食品加工では-食感がよくなる

機能の解明はむずかしいが、10年くらい先には80~90%はわかってくるのではないか。
深層水は薬ではない。摂取してすぐに効果が現れるというものではない。
まずは「おいしく食べる」こと。

赤穂化成株式会社 横山 嘉人氏 (入善町HPより抽出 講演内容の一部)

我社は、人間が必要とするミネラルの自然のバランスに着眼して「体にいい水」「ミネラルバランスの良い水」を製品化した。企業は技術はもちろん、何を、何の目的でつくるのかを明確にして事業に取り組むべきだと思う。深層水は宝石でいえば原石で、その磨き方が大切。 

海洋深層水は進化する水

今日より明日、明日より明後日、と海洋深層水の機能の解明は先にあるようです。
そういう点で、『海洋深層水は進化する水』と名づけてもよいと思います。

高知県で深層水の利用実験がはじまってから14年。1999年のTV番組で紹介され、第二次ブームといわれる人気を呼び、海洋深層水の神秘的イメージに火がつきました。この頃から昨年あたりまでは、深層水による経済波及効果は6,000億円と一部研究者により報告もされていました。

しかし、ブーム時に嵩上げされた部分は現在消滅し、本来の姿にもどりました。これから深層水に向かう皆さんは、すでに深層水の良さを知っている、あるいはこれから新たに深層水に出会う消費者に対して、どのように深層水を送り続けるか。またどのような新たな商品を送り出すか。どういう利用法があるのかといったテーマに向かうわけです。

養殖にも様々な分野があります。プランクトンの豊富な海面を作り、新しい漁場を形成する。海との共生を図ることも必要でしょう。

新発想で深層水の利用を考えていただきたいと思います。

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