鹿児島純心女子大学看護栄養学部准教授 武 敏子
魚と野菜中心の日本型の食生活から肉や油の多い欧米型に移行した食習慣が動脈硬化を起こしやすくし、心臓病や脳血管疾患の原因の一つになっているといわれ、その他にも運動不足,ストレスなどもその原因としてあるというのはよく知られていることです。食習慣によって栄養素のバランスに乱れが生じると生活習慣病を起こしやすくなりますが、なかでもマグネシウムの減少による生活習慣病では高血圧や動脈硬化,心筋梗塞などとの関係がある1)といわれていることにも注目してみたいと思います。
※内容は海の恵みレシピ集の内容を掲載しています。 全ての内容が2007年8月発行時点でのものとなっています。
マグネシウムとは
私達の体の中に存在する元素は酸素,炭素,水素,窒素が全体の約96%を占め2)、残りの約4%がカルシウムや鉄,マグネシウムなどのミネラル(無機質)です。このミネラルは体内でいろいろな生理作用などをもって大切な働きをしています。ミネラルのなかではカルシウムが2%と一番多く、マグネシウムは7番目に多い0.05%となっています(表1) 2)。 マグネシウムは成人の体内には約20~30g存在し、70%はカルシウムとともに骨や歯に存在2)しますが、残りは主に筋肉,神経,脳,体液などに電解質として含まれています。
マグネシウムの体内での働き
マグネシウムは骨の形成に必要なミネラルです。その他、筋肉の収縮、神経の情報伝達などの働きをしています。また、300種以上の酵素を活性化し、糖質,脂質,たんぱく質,核酸などの合成、エネルギーの産生に関与する補酵素として欠かせないミネラルとなっています。
表1 体内の主な元素の平均組成2)
元 素 | 含量(%) | 元 素 | 含量(%) | 元 素 | 含量(%) |
O | 65.0 | Ca | 2.0 | Cu | 0.00015 |
C | 18.0 | P | 1.1 | Mn | 0.00013 |
H | 10.0 | K | 0.35 | I | 0.00004 |
N | 3.0 | S | 0.25 | Co | こん跡 |
(水またはタンパク質,脂質,糖質などの有機化合物を構成する。) | Na | 0.15 | Zn | こん跡 | |
Cl | 0.15 | Mo | こん跡 | ||
Mg | 0.05 | F | こん跡 | ||
Fe | 0.004 | Cr | こん跡 |
マグネシウム欠乏症
健康人の場合、マグネシウムの摂取量に応じて腎機能が働き、生体内のマグネシウム恒常性と維持が行われるため、欠乏や過剰は起こらないといわれています。しかし、長期的な摂取 不足、小腸切除など消化管における吸収不全、過度の嘔吐や下痢、高血圧治療薬の長期服用、腎臓疾患、糖尿病などでマグネシウムが欠乏する場合があります。また、日常の生活でのアルコールの飲みすぎ、ストレス(騒音を含む)、喫煙、運動不足、肥満などはマグネシウムを減少させます1)。
欠乏症では神経・筋肉系障害(易疲労性、脱力感、体調不良、蟻走性微痛感、こむらがえり、手足のつれなど)、精神疾患(抑うつ、妄想、不安、興奮など)、マグネシウム欠乏性テタニー、頻脈、不整脈、食欲不振、消化不良、免疫機能の低下などをおこすことがあります1,5)。
マグネシウムの不足により動脈硬化が起こりやすくなり、さらに心筋梗塞など虚血性心疾患が起こりやすく2)なることがいわれており、特にマグネシウムとカルシウムの摂取量との比が、Ca/Mgで2以下において虚血性心疾患による死亡率が低いといわれています2、5)。また、水の硬度*からも、硬水地帯住民に比較して、軟水地帯住民には虚血性心疾患患者が有意に多いという疫学調査結果もある1)などマグネシウム摂取不足と虚血性心疾患についての関係が多くいわれています。
「日本人の食事摂取基準2005年版3)」ではマグネシウムの成人の推奨量は男性が340~370mg/日、女性は270~290mg/日になっています。一般にはカルシウムの600mg/日の1/2がよいとされていることから、300mg/日を目標としますと、現在の日本人の摂取量は平成16年の国民の健康・栄養調査結果では250mg/日となっており不足状態です。
*硬度:水中のカルシウムとマグネシウムの量を、炭酸カルシウム量に換算して表したもので、1リットル中に含まれている炭酸カルシウム(CaCO3)をmg数で表す。 硬度にはドイツ硬度(dH)とアメリカ硬度(1mg/L,ppm)があり、日本ではアメリカ硬度を使用している。 [CaCO3換算濃度:1mg/L(ppm)は約0.056°dH] |
硬度(mg/L)=カルシウム×2.5+マグネシウム×4.1 |
WHO(世界保健機構)の飲料水水質ガイドラインでは下記のようになっている。 |
マグネシウム過剰症
医薬品やサプリメントなどで多量に摂取したときや腎不全などの場合に血中マグネシウム濃度が上昇することがあり、下痢になる場合があります3)。 「日本人の食事摂取基準2005年版3)」では通常の食事からの場合、過剰症は見られないとして上限量は設定されていません。ただし、通常の食事以外で摂取する場合の上限量は、成人の場合、350mg/日、(小児の場合は体重1kgに対し1日5mg)と記されています。
メタボリックシンドロームとマグネシウム
2005年4月にメタボリックシンドロームの診断基準が発表されました。内蔵脂肪型肥満が基となり、高血圧や高血糖,高脂血症などを合併すると動脈硬化を起こしやすく、狭心症や心筋梗塞,脳梗塞などを起こしやすいとされる複数合併症のいわゆるメタボリックシンドロームを 減少させる運動が始まりました。マグネシウムには降圧効果があり6)、高血圧、高脂血症、動脈硬化症などの予防によい1)といわれており、メタボリックシンドロームにもマグネシウムがよい結果をもたらします。
食事で上手にマグネシウムを摂るためには
マグネシウムは海藻類、種実類、豆類、全粒穀物(玄米、小麦、そば米他)、貝類などに多く含まれています。マグネシウムを多く含む食品の可食部100g当たりで見ますと、海藻類の乾燥品が上位にありますが(図1)、常用量で見ますと、そば粉、玄米、ピュアココア、種実類や豆類などに多く含まれていることがわかります(図2)。 マグネシウムを10mg含む食品の量を表2にあげました。1食に100mgとることで1日300mgになりますが、例えば1食に主食のご飯を茶碗1杯分(精白米65g)で15mg、鮭1切れ60gで17mg、ひじき煮1杯で30mg、ほうれん草のお浸し60gで40mgとしますと、これで102mgになります。
マグネシウムの性質と調理上の注意点
マグネシウムは緑色野菜の緑の鮮やかな色のクロロフィル(葉緑素)の構成成分です。このマグネシウムは結合が弱く不安定なため、熱や酸、加熱時間によって壊れやすい性質があります。実験結果によりますと、80℃以上、5分以上の過熱、pH6.3以下で壊れて黄褐色に変色が進んでいます。加熱するときは3~5分9)ぐらいにします。お浸しや、椀種用の緑色野菜などは沸騰したお湯で短時間ゆで、すぐに冷水で冷やし、高温状態が持続しないようにして緑色を残します。酢の物はpHが低いため変色しますので、緑黄色野菜に向かないことになります。酢の入った調味をする場合は食べる直前に和えるか、かけるようにしますと変色が少なくなります。しょうゆやみそを使った料理もpH5~6の酸性なので短時間で調理します。また、ゆでる時のお湯の量が少ないと野菜中の有機酸が溶け出し、ゆで汁が酸性になりますので、たっぷりのお湯でゆでます。重曹で加えるとアルカリ性になるので、色よく仕上がりますが、組織が壊れて食感が悪くなり、水溶性のビタミンも溶出しやすいので不向きです。
表2 マグネシウムを10 mg含む食品の量
食品名 | 量 (g) | 食品名 | 量 (g) | 食品名 |
量 (g) |
あおさ素干し |
0.3 |
黒きくらげ |
4.8 |
牡蠣 |
14 |
わかめ素干し |
1.0 |
らっかせい |
5.0 |
はまぐり |
13 |
干しひじき |
1.7 |
そば粉全層粉 |
5.3 |
つるむらさき |
15 |
まこんぶ素干し |
2.0 |
切干し大根 |
5.9 |
ほうれん草 |
15 |
ごま |
2.8 |
油揚げ |
7.7 |
えだまめ |
17 |
素干し桜えび |
3.3 |
あずき |
8.4 |
バナナ |
32 |
アーモンド |
3.3 |
えんどう |
8.4 |
鮭 |
36 |
焼きのり |
3.4 |
玄米 |
9.1 |
豚肉 |
39 |
松の実 |
4.0 |
干ししいたけ |
9.1 |
精白米 |
44 |
きな粉 |
4.2 |
スキムミルク |
9.1 |
食パン |
50 |
抹茶 |
4.4 |
納豆 |
10 |
干しうどん |
53 |
大豆 |
4.6 |
あさり |
10 |
普通牛乳 |
100 |
図1 マグネシウムを多く含む食品
図2 常用量におけるマグネシウムを多く含む食品
こしき海洋深層水1食分(Mg21mg): こしき海洋深層水1100⇒ごはん80ml(Mg18mg) こしき海洋深層水100 ⇒ スープ150ml(Mg3mg) こしき海洋深層水1日分(Mg63mg): 3食のごはん、スープに使用 |
こしき海洋深層水とマグネシウム
海水中にはマグネシウム濃度が高いことが知られています。水道水や他の飲料水との比較(表3)しますと、ビールやワインにも比較的マグネシウムが多く含まれていますが、その他の飲料水に比べて海洋深層水はマグネシウムが多く含まれていることがわかります。 今回、料理に使用しました『こしき海洋深層水』には数多くのミネラルが含まれていますが、 その中でもマグネシウムが多く含まれています。分析センターによる分析試験結果では、特に「こしき海洋深層水 高度-1100」では日本食品標準成分表に掲載されている牛乳の約2倍、普通の煎茶(浸出液)の11倍の量になっています(表4)。
表3 水道水および各種飲料中マグネシウム濃度1)(ppm:mg/L) との比較
水道水 | ミネラルウォーター | 日本酒 | |||
東京 | 3.45 | 1 | 1.6 | 1 | 5.7 |
大阪 | 1.99 | 2 | 2.2 | 2 | 2.4 |
神戸 | 1.92 | 3 | 14.5 | ビール | |
奈良(西大寺) | 2.10 | 4 | 0.2 | 1 | 52.9 |
岡山 | 2.25 | 健康飲料 | 2 | 51.9 | |
(倉敷) | 2.3 | 1 | 10.9 | 3 | 47.9 |
(福山) | 1.09 | 2 | 11.7 | 4 | 49.0 |
高知 | 1.04 | 3 | 3.2 | 5 | 49.0 |
長崎 | 0.66 | 清涼飲料水 | ワイン | ||
こしき海洋深層水 | 1 | 0.7 | 1 | 39.1 | |
硬度100 | 20.0 | 2 | 1.2 | 2 | 60.3 |
硬度1100 | 220.0 | 3 | 3.3 | 3 | 81.9 |
表4 こしき海洋深層水 硬度-100,1100と牛乳,煎茶中のマグネシウムの比較
平成16年12月15 日 | Na | K | Ca | Mg |
mg/ℓ | mg/ℓ | mg/ℓ | mg/ℓ | |
こしき海洋深層水 硬度-100 | 93 | 5.2 | 4.6 | 20 |
こしき海洋深層水 硬度-1100 | 140 | 13 | 44 | 220 |
牛乳 → 1000g(ml)当たり | 410 | 1,500 | 1,100 | 100 |
煎茶(浸出液)→1000g(ml)当たり | 30 | 270 | 30 | 20 |
こしき海洋深層水と高血圧症・糖尿病・高脂血症
実際に『こしき海洋深層水』を施設のお食事にご飯とみそ汁に3ヶ月間、毎日使っていただき高血圧症や糖尿病、高脂血症の方にどう影響するか調査しました。
対象と期間
対象は間食の少ないと思われる高齢者施設の男女で平均年齢86.2歳(男性80.5歳、女性86.6歳)の27名(男性2名、女性25名)です。平成17年11月から平成18年1月までの3ヶ月間行いました。
方法
1日3食の中で、ご飯に「こしき海洋深層水高度1100」を83ml(1日250ml;マグネシウム54mg)、汁物に「こしき海洋深層水高度100」を150ml(1日450ml;マグネシウム9mg)使用していただき、1日の合計マグネシウムを63mgを摂取していただくことにしました。そして、高血圧症の方、糖尿病(高血糖値)の方、高脂血症の方にどういう変化が出るかを調べました。
結果
高血圧症に関しては、収縮期血圧の140mmHg以上の方は27名中18名おられましたが、 3ヵ月後には12名の改善がみられました(表5,図3)。これは66.7%の改善になります。残りの3名においては変わらず、1名は上昇、入院などでわからずが2名でした。開始後10日後に8名に改善が見られ、1ヵ月後には9名、約2ヵ月後には11名と改善者が徐々に多くなりました。高血圧の方で改善された12名の中には血圧降下剤を服用していない方は5名でした。また、収縮期血圧の正常値の方においては、3ヵ月後においても血圧は変わらず正常でした。拡張期血圧は最初から高い方はおられず、70~80mmHgを維持していました。 このことから、マグネシウムを多く含む「こしき海洋深層水」は血圧を下げる働きがあることがわかりました。
また、糖尿病(高血糖値)には、改善は見られませんでした。 血清高コレステロール値においては、3名中3名改善(表6、図4)で薬服用者は1名でした。100%改善ということになり、マグネシウムを多く含む「こしき海洋深層水」は血清コレステロールを下げる傾向が認められるということがわかりました。
表5 収縮期血圧測定結果(mmHg)
11月4日 | 11月14日 | 12月5日 | 12月16日 | 1月9日 | 1月23日 | ||
1 | 140 | 150 | 140 | 130 | 140 | ||
2 | 130 | 130 | 130 | 110 | 120 | 130 | |
3 | 150 | 160 | 160 | 160 | 140 | 140 | |
4 | 140 | 140 | 140 | 150 | 130 | 死亡 | |
5 | 140 | 150 | 140 | 160 | 150 | 160 | |
6 | 150 | 140 | 140 | 入院 | |||
7 | 140 | 150 | 150 | 140 | 150 | 140 | |
8 | 140 | 140 | 150 | 140 | 140 | 140 | |
9 | 120 | 110 | 120 | 120 | 120 | 120 | |
10 | 140 | 130 | 130 | 130 | 130 | 130 | |
11 | 160 | 150 | 160 | 140 | 140 | 140 | |
12 | 130 | 130 | 140 | 130 | 140 | 140 | |
13 | 140 | 130 | 140 | 130 | 120 | ||
14 | 160 | 140 | 130 | 150 | 150 | 150 | |
15 | 150 | 140 | 140 | 130 | 140 | 130 | |
16 | 130 | 140 | 130 | 130 | 130 | 130 | |
17 | 140 | 130 | 130 | 120 | 120 | 120 | |
18 | 150 | 130 | 140 | 140 | 140 | 140 | |
19 | 120 | 130 | 130 | 120 | 120 | 120 | |
20 | 150 | 140 | 140 | 140 | 150 | 140 | |
21 | 110 | 110 | 110 | 110 | 110 | 110 | |
22 | 120 | 130 | 120 | 110 | 110 | 死亡 | |
23 | 130 | 140 | 130 | 130 | 140 | 140 | |
24 | 150 | 140 | 150 | 140 | 140 | 140 | |
25 | 140 | 130 | 130 | 120 | 130 | 130 | |
26 | 150 | 150 | 150 | 150 | 150 | 140 | |
27 | 130 | 130 | 130 | 130 | 130 | 130 |
図3 収縮期血圧の変化
表6 総コレステロール測定結果(mg/dℓ)
平成17年10月25日 | 平成18年2月1日 | |
1 | 233 | 205 |
2 | 233 | 220 |
3 | 222 | 181 |
図4 総コレステロール値の変化
以上のことから、マグネシウムに注目して、食事から無理なく摂れるように、マグネシウムを多く含む食品を摂るか、海洋深層水を活用することもよいのではないかと思います。
食事として生活習慣病の特に虚血性心疾患に有効であるマグネシウムについて取り上げてきましたが、マグネシウムの摂取に関しては、カルシウム、リンとのバランスの問題もあります。マグネシウムの吸収や体内蓄積,排泄などは他の栄養素の摂取バランスにより大きく影響を受けます。摂取比をCa/Mgは2以下、またP/Ca摂取比も2以下が望ましいとされています1)。マグネシウム:カルシウム:リン=0.5:1:1~2ということになります。カルシウムやリンの摂取量が増えますとマグネシウムの吸収が減る5,8)ことから、カルシウムやリンを多く摂る時にはマグネシウムも多く摂る必要があります。
メタボリックシンドロームの条件になっています高血圧や虚血性心疾患の原因となる高コレステロール血症の改善にマグネシウムが良いとされることについて、こしき海洋深層水を使用したマグネシウムの摂取によって3ヶ月の食事からある程度の実証を得ました。
わが国の高血圧者はおよそ2000万人6)いると推定されています。日本高血圧学会の高血圧の治療ガイドラインでは収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上を高血圧としていますが、メタボリックシンドロームの診断基準ではウエスト周囲径が男性85cm,女性90cm以上に加え、高血圧では収縮期血圧130mmHg以上、拡張期血圧85mmHg以上7)としています。高血圧の予防には食塩6gの制限が第一ですが、生活習慣病の予防のためにも食事や飲料水などから充分なマグネシウムの摂取を心がけたいものです。
わが国の水道水のマグネシウムの含有量は1~3.5ppmと少ない1,6)ため、海洋深層水のような飲料水を料理や飲料水としても上手に利用するとよいと思います。
参考文献
1)糸川嘉則・斉藤昇編:マグネシウム-成人病との関係-,光生館,1995 2)林寛:栄養学総論,三共出版,2000 3)厚生労働省策定:日本人の食事摂取基準2005年版,第一出版,2005 4)香川芳子監修:五訂増補食品成分表2007,女子栄養大学出版部,2006 5)三浦裕士編集:栄養素としてのマグネシウム,臨床栄養1992年9月号,医歯薬出版、1992 6)島健太郎発行:食品素材と機能,シーエムシー出版,2005 7)猿田亨男総監修:高血圧-肥満・メタボリックシンドローム-,建帛社,2006 8)辻村卓編著:野菜のビタミンとミネラル,女子栄養出版部、2003 9)山崎清子・島田キミエ:調理と理論,同文書院,1990 |