海洋深層水の利用2

新たな発展

2016年11月に開催された、第1回韓国海洋深層水利用学会 国際フォーラムで中島敏光先生が講演された内容を提供して頂きました。海洋深層水のパイオニアが語る海洋深層水の経緯と未来とは。。。
(パワーポイントデータをそのまま画像にて掲載させて頂きました)
海洋深層水の利用1からの続きです。
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中島敏光先生

 元:日本 国立研究開発法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC)sIMG_1618
  海洋深層水プロジェクト研究チームリーダー
  韓国 京東大学 海洋深層水学科 教授/海洋深層水研究所 所長
著書:海洋深層水の利用―21世紀の循環型資源

3.国のプロジェクト研究(日本)によるDOWA実証研究

JAMSTECによるDOWA実証研究の申請は、科学技術庁の振興調整費「海洋深層資源の有効利用技術の開発に関する研究」(Ⅰ期:3年/主に取水装置の開発、Ⅱ期:2年/主に有効性の実証研究、総研究費9億5千万円)として承認され、国家プロジェクトとしてのDOWA実証研究が始まりました。
DOWA実証研究は、①陸上型DOWA研究および②洋上型DOWA研究の2課題からなり、水産生物の培養飼育に関する有効性および海域肥沃化の可能性に関する検証がそれぞれの目標でした。
陸上型DOWA研究はJAMSTECを中心とする国公立の6研究機関によって推進され、高知県が支援しました。一方、洋上型DOWA研究は水産庁の研究機関が中心となり9研究機関の参加によって推進され、地元の富山県が研究を支援しました。

1989年3月にそれぞれの海洋深層水取水技術が開発されました。そして、陸上型DOWA研究では、高知県の室戸地先の海岸にリールバージ工法による取水管が敷設されました(写真3)。高知県は研究棟などの陸上施設を整備し「高知人工湧昇実験場」(KAUL:Kochi Artificial Upwelling Laboratory)」が完成しました(図9)。高知県はKAULの完成を契機に、KAULを核とする新しい県立の研究所「高知県海洋深層水研究所」を創設しました。KAULは水深320mから水温約10℃、硝酸塩濃度約25μMの海洋深層水を日量460トン揚水する能力があります。
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陸上型DOWA研究では、オンライン供給による植物プランクトン、海藻および深海生物の培養飼育に関する海洋深層水の有効性が実証されました。以来、KAULは水産分野で注目され、取水施設は耐用年数20年を過ぎた現在でも順調に稼働しています。
一方、洋上型DOWAの研究では、水深250mから海洋深層水を日量2万6千トンおよび表層水を日量5万2千トン揚水する能力をもつ「豊洋」が開発されました(写真4)。そして、海域の肥沃化実験および海洋温度差発電(OTEC)による電力自給試験が行われました。OTECの連続運転試験では世界最長の412時間を達成し約3kWを発電しました。しかし、肥沃化実験は絶対放水量が少なく、また急激な混合希釈によりその効果は検証できませんでした。
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4.実用化に向けたJAMSTECの研究活動

4-1. 企業との共同研究

1991年3月にDOWA研究は終了しましたが、JAMSTECはKAUL完成時から実施していた実用化を目指す企業との共同研究(表2)を継続しました。共同研究の成果は高知県に移転しつつDOWA技術の体系化に向けて集積されました。
共同研究では、取水技術(稼働特性や取水効率等)、制御技術(水温や流量制御等)、運用技術(モニタリングや保守管理等)などの基盤技術および実用化に向けた利用技術が研究されました(表3)。

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利用面では有用微細藻類の培養、冷水性魚類の飼育、ヒラメの越夏飼育と肉質調査、イセエビ幼生飼育等の水産分野(写真5)、冷熱エネルギーによる冷房(写真6)、逆浸透膜による淡水化(写真7)などの研究が行われ、多くの分野でDOWAの有効性が検証されました。逆浸透膜による淡水化の研究は製品開発のベースとなり、飲料水、化粧品等の多様な海洋深層水商品の開発を促しました。
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また、幅広い利用研究は個々の利用技術をシステム化して海洋深層水資源を効率的に利用する多段利用というアイデアを生みました。1993年、JAMSTECは海洋深層水を効率的に利用するオンライン給水の「多段利用システム」を提案しました(図10)。
この多段利用の技術概念は、16年後の2009年、富山県入善町の海洋深層水工業団地内で生産を開始した「ふんわりご飯」製造工場の空調に5℃の海洋深層水の低水温を利用し、16℃に昇温した清浄な海洋深層水をさらにアワビ養殖に利用するというシステムとして実用化しています(図11)。
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4-2.高知県との共同研究

高知県からの要請を受け、JAMSTECは「JAMSTEC地域共同研究資金」により、1991年から3ヶ年計画で高知県と共同研究を始めました。
当研究では最初の取水管と同仕様(取水深度320m、取水日量460トン)を目指して2本目の取水管を敷設しました。深度344m(取水深度の差は24m)から日量460トンの取水ができ、海洋深層水取水管とその敷設工法(リールバージ工法)の信頼性が再検証されました(図9参照)。このリールバージ工法は日本国内の多くの海洋深層水取水施設建造に採用されています。また、2008年には韓国の㈱江原深層水の海洋深層水取水にも同工法が採用されました。
また、前述の企業との共同研究成果を踏まえて、実用規模の水温制御装置(写真8)やKAUL施設内の表層水と深層水の流路系の水温、塩分、pH、溶存酸素量、流量などを監視するモニタリング装置(写真9)を整備しました。高知県は研究棟などを整備し、KAULの施設機能は著しく向上しました。敷設された2本目の取水管は1994年3月に高知県に譲渡移管されました。
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