海洋深層水の利用3

新たな発展

2016年11月に開催された、第1回韓国海洋深層水利用学会 国際フォーラムで中島敏光先生が講演された内容を提供して頂きました。海洋深層水のパイオニアが語る海洋深層水の経緯と未来とは。。。
(パワーポイントデータをそのまま画像にて掲載させて頂きました)
海洋深層水の利用2からの続きです。
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中島敏光先生

 元:日本 国立研究開発法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC)sIMG_1618
  海洋深層水プロジェクト研究チームリーダー
  韓国 京東大学 海洋深層水学科 教授/海洋深層水研究所 所長
著書:海洋深層水の利用―21世紀の循環型資源

5.地域振興に向けた自治体によるDOWA事業の推進

高知県はJAMSTECからの取水管の譲渡を契機に、1995年10月から地域振興のための製品開発を促すために地元企業などに海洋深層水の「試験分水事業」を開始しました。また、高知県はこれを担当する新しい行政組織として、1997年4月に「海洋深層水対策室」を新設しました。これにより、高知県は「高知県海洋深層水研究所」に加えて、組織的にもDOWA事業の推進体制が整いました。
1995年3月、富山県は水産庁やマリノフォーラム21の支援のもとで、水深321mから日量3,000トンを揚水する陸上型DOWA施設を富山県の滑川(なめりかわ)市に整備し、水産分野のDOWA研究に再び取り組みました。以来、高知県と富山県は良きライバルとしてDOWA事業を推進する中核的な自治体となりました。

6.海洋深層水利用研究会(現在の海洋深層水利用学会)の設立

1996年1月、JAMSTECはDOWA促進と情報交流を目的とする「非営利組織の設立」に向けた準備委員会を高知県や富山県の参加のもとに設置しました。そして翌年の1997年1月に科学技術庁や水産庁の後援を受けて「海洋深層水利用研究会」を発足させました。当研究会の事務局はJAMSTECに置かれ、以来、当研究会はDOWA活動の情報交換の場として中心的な役割を果たしました。
発足当時は個人会員71名、団体会員は33団体、そして2001年末には個人会員212名、団体会員105団体に増加しました。2006年4月1日に海洋深層水利用学会へ名称変更し、事務局も大学に移行しました。2016年2月現在、学会会員は個人会員137名(内、外国会員7名)、団体会員45団体です。研究会の発足を契機に、1998年3月にJAMSTECはKAULの取水施設や機器類の総てを高知県に譲渡移管しました。

7.海洋深層水産業の誕生と全国への普及

1998年は「海洋深層水産業誕生の年」と言えるかも知れません。高知県は「試験分水」の努力が実って海洋深層水商品「化粧品」(写真10)がヒットしました。富山県でも同年に海洋深層水使用の「発泡酒」(写真11)が発売され、約1,500億円の売上を達成しました。
この海洋深層水ビジネス市場の形成を契機に、「海洋深層水」は全国的に知られ、地域振興への起爆剤として注目されました。
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1998年、静岡県はDOWA事業計画への協力を科学技術庁(現在:文部科学省)と水産庁に要請しました。この要請を受けて、JAMSTEC(科学技術庁)はDOWA研究プロジェクトチームを編成し、静岡県との共同研究を1998年から5ヶ年計画で開始しました。
一方、水産庁も取水施設の建設を支援するとともに、これを契機にDOWA施設の整備を促進する補助事業を施行しました。水産庁の補助事業は静岡県の事業計画が発端と言うことができます。以来、この補助事業により室戸市(2000年)、静岡県(2001年)、入善町(2001年)、岩内町(2003年)、熊石町(2003年)、尾鷲市(2006年)など日本の各地にDOWA施設が整備されました。これまでに整備されたDOWA施設は19ヶ所です。内、1ヶ所は陸上施設の支障により撤退し、現在稼働しているDOWA施設は18ヶ所です(図12)。
当初、その過熱ぎみが懸念される時もありましたが、試験データの公表や商品ブランド化(図13)など事業者(主に県や市などの海洋深層水供給機関)の努力によってDOWA事業は地域に浸透しながらビジネス市場を形成してきました。
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ちなみに、2011年度の高知県のDOWA関連商品の年間売上高は136億円で参加企業は約122社です(図14)。主な商品は清涼飲料水30%(売上額は41億円)や化粧品等29%(売上額は40億円)です(図15)。一方、2005年度の富山県の年間売上高は、ビールの売上高1,450億円を除くと83億円で参加企業は113社です(図16)。主な商品は化粧品等49%(売上額は41億円)や食品37%(売上額は31億円)です(図17)。
他の取水地域でも、DOWAビジネスは事業者による販路拡大、企業誘致などの努力により売上額も徐々に伸び、地域経済の活性化を促進しています。また、経済だけではなく、海洋深層水イベントなどを通して地域の教育文化にも貢献しています(図18)。
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一方、新たな発展のためには課題もあります(表4)。現在、海洋深層水関連商品のほとんどはオフライン給水によるものですが、前述の「ご飯製造工場の空調」と「アワビ養殖」の多段利用はオンライン給水です(図11参照)。オンライン給水は多段利用を可能とし、多段利用は低水温、清浄などの海洋深層水資源の効率的な利用を可能とします。従って、高付加価値の商品開発に加え、オンライン給水方式に関連する商品開発も重要です。
他方、耐用年数20年を過ぎるDOWA施設が出始めています。陸上の生産設備に多額な投資が行われている現在、海洋深層水の安定取水と供給は極めて重要です。それ故にこれらの対策は早急に取り組むべき課題です。
DOWA事業の新たな発展のためには、自治体や事業者による地域振興、産官学による研究開発、そしてこれらの密接な連携による推進(図19)が求められています。
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ご清聴ありがとうございました。
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